会社譲渡とは?株式譲渡や事業譲渡との違い、メリットや譲渡までの流れを解説

合併や株式譲渡、事業譲渡など、さまざまなM&Aの手法の一つとして、会社譲渡という方法があります。
経営者及び株主が、数あるM&Aの手法の中で会社譲渡を選択するのは、その企業の経営状況や業界の環境、メリット、デメリット、関係者の希望を考慮した上での結論であると言えます。
では、会社譲渡とはどのような手法で、その特徴はどのようなものなのでしょうか?今回は、会社譲渡について解説をします。

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目次

会社譲渡とは

会社譲渡とは、M&Aの1つの形態で、会社の経営権を丸ごと第三者に譲り渡すことを言います。具体的には、株式会社の株式を第三者に売却するのと同時に、併せて経営権もその第三者に引き渡してしまうということです。

その意味では、企業全体を完全に譲受先である第三者に引き継いでしまうという意味で、極めてシンプルな方法であるとも言えます。会社譲渡をした場合、基本的には、財務的にも債権債務や財産なども含めて、すべてそのままの状態で譲受先に引き受けてもらうということになります。

会社譲渡と株式譲渡や事業譲渡との違い

では、会社譲渡は、株式譲渡や事業譲渡とはどのように違うのでしょうか?まず、株式譲渡は、その名のとおり、譲渡するのは企業の発行した株式です。よって、株式譲渡は、譲渡側の企業の株主が、所有する株式を第三者に譲渡することを言います。

そして、譲渡側の企業の株主が譲渡する株式数が、経営権を掌握する割合である場合には、その株式譲渡は経営権の譲渡も伴うことになりますので、この場合の株式譲渡は会社譲渡と同じ意味になります。それに満たない株式数の株式の譲渡の場合は、経営権の譲渡は伴うことはありませんので、単なる株主がその所有する株式を譲渡するとことだけになります。

次に事業譲渡との違いについて考えてみます。事業譲渡というのは、譲渡の企業の株主が所有する株式の移転は伴わず、事業のみを譲受先に譲渡することを言います。会社譲渡の場合には、譲渡の企業が行っている数ある事業全体を、基本的には事業の選択をすることなくすべて譲渡するのと比較して、例えば、譲渡企業の事業の中で、不採算である事業を同業他社に売却することで、譲渡側も譲受側もメリットが得られるようなM&Aが実施できるという方法として、事業譲渡を行うということが考えられます。

会社譲渡を行う理由

企業がM&Aの手法の中で、会社譲渡を行う理由はどのようなことが考えられるでしょうか。最もシンプルな理由は、会社譲渡の最も大きな特徴である、会社を丸ごと譲渡できるということから、その理由が考えられます。

例えば、中小企業などが近年抱える後継者問題を解決する方法として、その企業を創業したオーナー兼経営者が高齢となって、事業を引き継いでくれる人がいない場合に、会社譲渡を行って、企業全体を譲り渡すというようなことが考えられます。その他にも「人手不足で、従業員が集まらず、仕事が回らなくなってしまった」、「大手企業との競争が激しく、経営が成り立たなくなってきた」、「海外の企業との競争も激しくなり、企業経営に行き詰まってしまった」など、会社譲渡を行った具体的な理由としては、以上のような理由を挙げる経営者が多いようです。

会社譲渡のメリット

会社譲渡を行うメリットは、その特徴である会社を丸ごと譲受企業に引き継ぐことができるということから派生することから考えられます。

具体的には、

  •  会社の事業を後継者に引き継げる
  •  会社の事業を現状のまま譲渡できる
  •  財務状況もそのまま譲渡できる
  •  会社の譲渡益を享受できる
  •  同業他社への譲渡で規模の拡大やシナジー効果が期待できる

というようなことが考えられます。それぞれの場合について、見ていきたいと思います。

会社の事業を後継者に引き継げる

メリットの一つ目は、会社譲渡を行う主な理由としても挙げた「事業を引き継いでくれる人がいない、後継者を見つけることができない」ということが解消できるということです。
会社譲渡を行えるということは、経営者の希望する、現在の企業をそのまま引き継いでくれる株主や経営者が見つかったということですから、これは大きなメリットと言えます。

会社の事業を現状のまま譲渡できる

会社譲渡の場合、企業自体をそのまま譲受する企業が引き継いでくれると言うことですから、従業員もそのまま譲受する企業に引き継がれることになります。
この点も、既存の社員の雇用に対して責任感があり、従業員の雇用を守りたいと希望する経営者としては、会社譲渡を選択する理由となるメリットと言えるでしょう。

財務状況もそのまま譲渡できる

財務的にも、譲渡側の企業の資産や資本だけでなく、負債などもそのまま引き継がれるということから、企業が持っている負債もそのまま譲受先の企業に引き取られるということも、メリットとして挙げることができます。

会社の譲渡益を享受できる

会社譲渡を行う企業の株主としては、譲渡益を享受ができます。もちろん、譲受企業との譲渡価格の交渉にもよりますが、特に企業に含み益やのれん代などがあるような場合には、単なる株式の売却額に利益を載せた額の譲渡益を受け取ることができます。

同業他社への譲渡で規模の拡大やシナジー効果が期待できる

さらに、企業そのものとしても、同業の他社への売却などの場合には、規模の拡大やシナジー効果によって、譲受側の企業が同業種の業界内でのプレゼンスが上がるというメリットを受けられる可能性もあります。

会社譲渡のデメリット

会社譲渡をした場合には、デメリットもいくつか考えられます。これらについて見ていきたいと思います。

譲渡会社の経営者などが業務上拘束される可能性がある

会社譲渡をした後、譲渡側の株主及び経営者が譲受先によって事業に関して拘束されるという可能性があるということです。事業に関して拘束される理由としては、2種類考えられます。

1つは譲受先の企業が当面、買取った会社の事業状況を原状のまま継続することを希望することによる拘束です。譲受先の企業としても、まずは現状の事業状況を継続して、得意先や雇用関係を維持したいという考えになることは、よくあることです。

また、逆に、譲渡した会社の事業について、譲渡側の経営者に対して、一定期間は同一地域で事業を行わないことを約束させられる可能性もあります。これは、これまでの会社のしがらみを清算したうえで、経験を生かして、新たに同じ事業をすることで、旧の会社の競業会社ができることは、譲受側の企業が望むことではないからです。

このように、譲渡に対して、譲渡会社の事業についての一定の拘束がかかる可能性があるということは、会社譲渡のデメリットと考えられます。

条件が合わず決裂する可能性がある

会社譲渡は、会社の売買ということですから、当然、決裂する可能性があるということも考えられます。会社譲渡を行う場合には、譲受側の企業に対しては、財務諸表や資産台帳、登記簿など、すべて開示をしたうえで交渉を行うことになります。
さらに、M&A専門業者などの支援を受けて実際の資産やコーポレートガバナンス、訴訟になる可能性のある問題がないかなどのデューデリジェンスを行うことになります。

そして、会社譲渡の対象となる企業の売買価格を決めるわけですが、その方法も、単純に売買時の時価で判断するのか、将来の利益予測まで想定して価格を決めるのか、など、合意に至らない可能性も孕んでいます。このため、最終的に譲渡契約の合意に至らないという可能性があります。

さまざまな手続きが必要

前述した通り、会社譲渡の価格を決めるだけでも、財務諸表や資産台帳、登記簿などの確認、そのうえでデューデリジェンスの実行があり、また、譲渡を意思決定するためには、譲渡側も譲受側も双方の会社の中で、取締役会や株主総会の特別決議による意思決定手続きなどが必要となります。その上で、会社法で定められている会社譲渡の手続きに従って、取引先などに対する周知の手続きも必要です。このように煩雑な手続きを行わなければならないということも、デメリットの一つと言うことができると思います。

最後に、これだけさまざまな手続きや確認をしたうえで、会社譲渡が行われた場合であっても、会社譲渡はそのようなことも含めて丸ごと企業が譲渡側から譲受側に引き継がれるため、譲渡後に簿外負債が判明してしまうという可能性があり、このようなことが起これば、あらかじめその対応に定めていても、実質上、これらの解決のためにさまざまな手続きや合意が必要となるため、デメリットとして考えられます。

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会社譲渡による企業売却価格の算定方法

会社譲渡による企業売却価格の算定方法としては、大きく3つの方法が知られています。その3つの方法は、

  •  コストアプローチによる算定方法
  •  インカムアプローチによる算定方法
  •  マーケットアプローチによる算定方法

です。 それぞれ、詳しく説明します。

コストアプローチによる算定方法

コストアプローチは、会社譲渡される企業の純資産価値に注目してその価値を算定する方法です。その純資産価値を決める方法として、さらに簿価純資産法、時価純資産法、時価純資産プラス営業権(のれん)で算定する方法に分類することができます。

簿価純資産法は、単純に譲渡の企業の貸借対照表の資産から負債を引いた純資産を評価の基準とする方法です。
時価純資産法は、純資産を単純に貸借対照表上の数値ではなく、時価で評価し直して計算する方法です。例えば、土地や建物などの不動産は、貸借対照表に載っている資産価値と実際の価値が違っていることが通常です。このようなことも加味して純資産を算定し、企業価値を算出する方法が時価純資産法です。

さらに、無形資産である営業権(のれん)の価値も加味した評価方法が時価純資産プラス営業権でのコストアプローチになります。

インカムアプローチによる算定方法

イインカムアプローチは将来に見込まれる成長による利益をそのリスクを加味した形で現在価値に評価して算定することによって、企業価値を図るという方法です。その具体的な評価の方法としては、将来見込まれるフリーキャッシュフローから評価するDCF法と株主が受け取ると見込まれる配当から評価する配当還元法などがあります。

DCF法は、Discount Cash Flow法というのが正式名称で、割引キャッシュフロー法とも言われます。将来見込まれる譲渡企業のフリーキャッシュフローを加重平均資本コストで割り引いて計算されます。

次に配当還元法は、株主に実際に支払われる配当金に基づいて企業価値の評価を定める方法です。具体的には、実際に譲渡企業が配当した実績を基に割り出したり、譲渡企業の業種の配当金の平均配当性向から割り出したり、内部留保が再投資されることを前提として将来に予測される配当金を割り出したりして計算されます。

マーケットアプローチによる算定方法

マーケットアプローチ法は、その企業の市場価値を基に企業売却価格を算定する方法です。具体的な方法としては、評価する企業自体の市場での株式価格を基に算定する市場株価法と、同業種の同規模の他企業の市場株式価値やM&Aの事例から評価する企業の規模などに応じて一定の割合をかけて企業価値を算定する類似会社比較法(マルチプル法)などがあります。

中小企業の企業売却価格の算定方法としては、コストアプローチ法が主に使われる傾向があります。その理由は、そもそも中小企業と比較できるような同業種で同規模の上場企業を見つけるのが困難なことから、マーケットアプローチは難しく、同様に中小企業の場合は、将来の収益の見込みをつけるインカムアプローチを取ることも困難であるためです。

大企業や比較できる事例があるような場合には、コストアプローチでは測れない実際の企業価値を反映できるという考え方から、インカムアプローチ法やマーケットアプローチ法が取られることが多いです。

会社譲渡に必要な費用

会社譲渡を行う際に必要となる費用は、大きく分けて、株式を売却することによって発生する税金と専門家に支払う相談や業務執行の費用があります。

税金関係の費用

会社譲渡を行うために行う株式の売却による税金としては、譲渡所得に対する税金と株式をまとめるために必要となる税金があります。

譲渡所得に対する税金とは、売却する会社の株式を売却することによって得た金額から、会社譲渡のために必要となった手続きや費用を差し引いた額に対してかけられます。
譲渡所得対する税金は所得税15.315%と住民税5%の合計20.315%となり、累進課税とはなっておらず、金額にかかわらず一律です。

中小企業などの場合に、相続などによって株主が親族になどに分散している場合があります。この場合、株式を直接譲受企業に売却する場合には、それぞれの株主が前述の所得税及び住民税を支払うことになりますが、売却に先立って、親族間で株式のやり取りをした場合には、その相続や利益に対して相続税や贈与税がかかるということが考えられます。

専門家への相談や業務執行のための費用

次に、会社譲渡を行う際に必要となる費用としては、専門家への相談料や業務執行費用があります。会社譲渡を行う際に関係する専門家としては、弁護士、M&A仲介専門業者、公認会計士、税理士などが考えられます。

すべての弁護士が会社譲渡を取り扱ってくれるとは限りませんが、M&Aに強い弁護士や弁護士事務所があります。これらの弁護士や弁護士事務所に会社譲渡を依頼する場合には、その費用がかかってくることになります。会社譲渡の業務を依頼した場合の報酬は、それぞれの弁護士や弁護士事務所によって違っています。
一般的に着手金、成功報酬という体系を取っている場合が多いです。法律の専門家でもあるので、安心して依頼をすることができますが、費用などについては、よく理解をしたうえで依頼をする必要があります。

会社譲渡を検討する際に、譲受先を見つけるためにM&A仲介専門業者に仲介を依頼した場合には、その費用がかかります。特にその報酬額については、法律などで定められた者はありませんが、どのM&A仲介専門業者も似たような報酬体系になっているようです。
着手金、中間報酬、成功報酬という体系を取っているというのが一般的です。後にトラブルにならないために、仲介契約を結ぶ際には、その報酬体系や業務内容について十分説明を受けて依頼することが重要です。

次に、公認会計士や税理士にも会社譲渡を得意としているところも存在します。その理由は、会社譲渡を行うにあたっては、企業価値の算定、支払い税金の計算やデューデリジェンスによる資産や負債の評価など、公認会計士や税理士が得意とする分野にも関係するからです。

公認会計士や税理士に依頼する場合にも、それぞれの報酬体系に基づいた費用を支払う必要がありますので、依頼をするにあたっては、十分納得した上で依頼をする必要があります。

会社譲渡の注意点

会社譲渡は、譲渡側の企業と譲受側の企業が売却価格に合意をして、株式を譲渡すれば成り立つというように考えられますが、実際上の会社譲渡においては、譲渡がスムーズに進行するために、いくつか注意を要する事項があります。
ここでは、従業員の引継ぎ、許認可の引継ぎ、取引企業への通知、取引金融機関の合意について取り上げます。

従業員の引継ぎ

会社譲渡を行う際に、経営者として最も気になることの1つが従業員の雇用です。譲渡側の企業の経営者としては、会社譲渡後もこれまで会社に尽力してくれて来た従業員については、できるだけ雇用が継続されることを希望することが多いです。このような場合には、譲渡企業は会社譲渡の条件として、従業員の雇用の継続を条件とすれば、基本的には雇用が継続されることになります。

許認可の引継ぎ

許認可の引継ぎにも注意が必要です。業種によっては、許認可が引き継がれないと会社の業務が行えないということにもなり得ます。会社譲渡の場合、基本的には許認可は引き継がれないというのが通常ですので、譲渡側の企業は自社の許認可について洗い出し、会社譲渡が完了するまでにそれらの許認可について取得するように手続きを進めてもらう必要があります。

取引企業への通知や取引金融機関との合意

取引企業への通知も会社譲渡後に譲受企業がスムーズに経営を継続するためには必要な手続きです。譲渡の企業のこれまでの製品などを継続して製造したり、取引を継続したりするためには、まずは取引企業との関係を継続することを希望するというのが一般的です。
このため、特に譲渡前の取引企業との関係の継続を希望する場合は、譲渡企業と譲受企業は協力して取引企業へ通知して、これまでの取引関係の継続を依頼するなどの関係構築をしておく必要があります。

また、取引金融機関との合意も必要となります。会社譲渡の場合、譲渡側の企業の借入金などの債務についても一切譲受先の企業に承継されることになります。債務の承継のためには、貸主の承認が必要となりますから、取引金融機関には、会社譲渡についてあらかじめ合意をしておく必要があります。

この手続きを行って、合意を得ておかないと、最悪の場合、繰り上げ返済を要求され、会社経営が厳しくなることがあり得ます。もちろん、譲受企業の取引金融機関で借り換えが可能であれば、問題とはならないと考えられます。

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会社譲渡の手続きや流れ

会社譲渡を行うにあたっては、一連の手続きを行う必要があります。大まかに言えば、①会社譲渡を行うにあたって仲介をしてもらう弁護士事務所、仲介会社、公認会計士や税理士との契約、➁譲渡先企業との会社譲渡契約の締結、③経営権の受け渡しとなります。それぞれについて、詳しく見ていくことにします。

会社譲渡を仲介してもらう専門家との契約

まず、会社譲渡の仲介をしてもらう弁護士事務所や仲介会社、公認会計士または税理士などとの契約を行います。自ら譲渡先の企業を見つけている場合などについては、弁護士事務所や公認会計士または税理士などに依頼をする方が、都合が良い場合もあるでしょう。

一方で、全く譲渡相手先企業の目星もついていないような場合には、仲介会社を通じて譲渡先企業を探すということが効率的である場合もあると思います。最近は、M&Aのマッチングを、インターネットを利用して行っている仲介会社もありますので、これらのサイトを有効利用するということも良いと思われます。

譲渡先企業との会社譲渡契約の締結

譲渡先企業の候補が決まれば、譲渡先候補の企業と具体的な売却価格や譲渡のための諸条件を交渉することになります。

会社譲渡価格の決め方は、前述のとおり、大きくコストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチがあります。これらのいずれかの方法によって譲渡と譲受企業が納得できる価格を定めます。さらに、従業員の継続的な雇用や社名やブランド名の継続、経営者や主要な社員が一定期間会社譲渡後も譲渡される会社に継続して残るなど、お互いに希望する条件を出し合い、合意をして、譲渡契約内容を決めます。その後、デューデリジェンスで資産や会社の状況を確認して、譲渡契約を結ぶこととなります。

経営権の受け渡し

この譲渡契約締結後又は並行して、従業員への説明、取引先への通知、取引金融機関の合意、プレスリリースなどを行って、経営権のスムーズな受け渡しを行います。 これらの手続きを経て、会社譲渡が行われることになります。

会社譲渡に必要な書類

会社譲渡の大まかな流れは、上記のとおりですが、それぞれの手続きにあたって、必要な書類の作成や提出などが必要となってきます。これらについて、説明していきます。

まず、会社譲渡にあたっては、最終的に株式の譲渡を伴いますので、会社譲渡のために必要となる株式譲渡される株式に譲渡制限の有無を確認します。株式に譲渡制限がない場合には、譲渡側と譲受側の合意によって問題なく株式を売却できますが、株式に譲渡制限がある場合には、株式の譲渡のためには、譲渡の承認のための手続きを踏む必要があります。

株式に譲渡制限がある場合、株式を譲渡しようとする株主は株式譲渡承認請求をしなければなりません。その際、株式譲渡承認請求書を提出する必要があります。
株主から株式譲渡承認請求書が提出されると、取締役会設置会社においては取締役会で、取締役会が設置されていない会社においては株主総会で株式譲渡の是非を判断します。なお、取締役会設置会社でも株式譲渡の判断は株主総会で行うと決められている場合には、株主総会での判断になります。

会社としては、この株式譲渡承認請求書の提出を受けて、取締役会の開催または臨時株主総会の開催の手続きが必要となります。
取締役会または株主総会での株式譲渡承認の是非の判断についてですが、株式譲渡会社譲渡側の場合、会社譲渡を決める経営者側がすべてまたは、ほぼすべての株式を持っていることが前提ですので、通常、株式譲渡は承認されることになるはずです。ただ、必要な手続きとしては、この行為を行う必要があります。この際、作成が必要な書類としては、臨時株主総会を招集するための招集通知書、取締役会や臨時株主総会の議事録、株主に対する株式承認通知書の作成が必要となります。

次に、譲渡企業と譲受企業との間で、売却価格などの合意が見られれば、会社譲渡のための契約書の作成が必要となります。会社の譲渡は、実際には株式の譲渡によって行われますので、作成する契約書は、株式譲渡契約書となります。この株式譲渡契約書には、売却価格のほか、会社譲渡にあたっての諸条件、具体的には譲渡側としては、従業員の雇用確保、社名またはブランド名の維持、譲受側としては、旧経営者や中心となる社員の会社経営の持続など、会社譲渡の交渉においてお互いに希望し、合意をした内容を盛り込む必要があります。

会社譲渡の契約書を交わして、実際に株式の譲渡契約が成立した後に、譲受側企業は、会社に対して株式名義書換請求書を提出します。これは、会社法第130条1項に「株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。」定められているからです。

最後に譲受側企業は、会社に対して「株主名簿記載事項証明書交付請求書」を提出し、会社は「株主名簿記載事項証明書」を発行します。これは、株式名義の書き換えが行われたということを譲受側企業が確認するための行為です。
これまで見てきた通り、会社譲渡のためには、その手続きに沿って適切に書類の作成をする必要があります。

会社譲渡を成功させるためのポイント

会社譲渡をうまく進めるためには、いくつかのポイントがあります。これらの項目について、しっかり押さえておくことで、会社譲渡が最終的に成功であったと評価される可能性が高まります。そのポイントについて見ていきたいと思います。

情報の漏洩

会社譲渡を行うにあたって、細心の注意を払いたいのが、情報の漏洩です。不正確な情報が漏洩すると、従業員や取引先に不要な不安感を与えることになり、貴重な人材が流出したり、重要な取引先との関係が悪化したりする可能性もあります。
このようなことにならないように、会社譲渡を決意した場合には、できるだけ速やかに、かつ必要最小限の関係者で情報管理をした上で話を進めることが肝要です。また、いずれ会社譲渡をと考えているような場合は、最適な譲渡先を見つけるために、普段から情報収集しておくことも重要です。

自社の基本情報の把握

譲渡側としては、自社の強みや弱み、財務諸表や従業員数などの基本情報を把握しておくことも重要です。また、売却価格や従業員の継続雇用、取引先との関係維持、社名やブランド名の維持など、会社譲渡をする際に、譲渡側として譲受側の企業に対して、何を希望し、重要視するのかということについてもよく考慮しておくことが必要です。

譲渡後の拘束の確認

会社譲渡の契約を行う際に、譲受側の企業が継続した安定経営を続けることを目的として、「キーマンロック条項」を入れることを求めてくる可能性があります。
この場合には、「キーマンロック条項」の対象となった人材については、会社譲渡された企業に一定期間拘束されることになってしまいます。経営者がこの条項の対象となると、新たな事業を起こすことができなくなってしまうこともあり得ます。

よって、このような条項を結ぶのかどうかと言うことも譲受側の経営者としては、会社譲渡をうまくまとめる際のポイントとなります。

簿外債務の存在の確認

譲受企業側として注意を要するポイントの1つは、簿外債務などが会社譲渡後に発覚する可能性があるということがあります。これを避けるためには、デューデリジェンスを綿密に行うことが重要です。典型的な簿外債務としては、未払いの残業代や買掛金、債務保証や賞与や退職金の引当金不足、訴訟リスクなどがあります。会社譲渡後でも、簿外債務が露見した場合には、会社譲渡自体が解消となることもあります。

上記のようなポイントを押さえた上で、会社譲渡の手続きを進めることが、会社譲渡を成功させるために必要となってきます。

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会社譲渡の成功事例

では、会社譲渡の成功事例を見ていきたいと思います。会社譲渡は、譲渡側から見れば会社譲渡である一方、譲受側からすると会社買収と言えます。それぞれの事例では、譲渡側及び譲受側の買収の意図が興味深い事例があります。それらに注目しながら見ていきたいと思います。

DHCのオリックスへの会社譲渡

2023年1月31日付でオリックスはDHCの株式譲渡が完了し、子会社化されたと発表しました。DHCは化粧品、サプリメントの販売で有名な会社で、オリックスは経営の多角化とDHCが持つ化粧品やサプリメントの主要な顧客の獲得をグループのメリットとして評価したものと思われます。
一方、DHC側は、大株主である創業者で会長兼社長が高齢になってきていて、適正な事業継承を考えていたということがあります。これらのお互いのニーズがマッチして会社譲渡が行われたという事例です。

DeNAによる横浜ベイスターズの買収

2011年11月4日にDeNAによるプロ野球球団の横浜ベイスターズの買収が行われました。DeNAは、インターネット関連会社で、スマートフォン用のゲーム開発・配信や電子商取引サービスを行う会社で、日本プロ野球界や地域社会への貢献と自社のブランド価値・知名度の向上を目的として横浜ベイスターズの買収を行いました。買収当時はまだまだDeNAという会社の存在が有名ではありませんでしたが、DeNAが世間に知られるきっかけとなった会社譲渡の事例であると考えられます。
前述のオリックスも、知名度のアップ、広告宣伝を目的として1991年に阪急ブレーブスを買収しています。

ローソンによる成城石井の買収

2014年10月31日、コンビニエンスストア経営会社のローソンが高級スーパーの成城石井を買収しました。この会社譲渡の目的は、ローソン側としては成城石井を傘下に入れることでの業績拡大、成城石井というブランドによるイメージの向上、そして、自社のロジスティックや販売分析ノウハウを成城石井の運営にも反映させることで更なる収益向上を目指したものと考えられました。
この会社譲渡はロジスティックの効率化などのシナジー効果が得られた好事例として知られています。

ソフトバンクグループによる買収事例

ソフトバンクグループはM&Aを繰り返してグループ全体を大きくしている企業として有名です。その拡大の歴史の中でも会社譲渡を受けることによって、事業拡大を繰り返してきました。
2004年には、日本で携帯事業を展開していたイギリスのボーダフォンの日本法人の買収を行い、日本の3大携帯電話会社の一角を担うという大きな会社譲渡を受けました。
また、2005年にはダイエーからプロ野球球団のダイエーホークスを買収し、その知名度向上や宣伝効果、プロ野球界への貢献というイメージアップを図りました。

その他にも、参加企業であるYahooによるファッションイーコマース会社のZOZOの実質的な買収などを通じて、弱かったイーコマース事業の強化や収益向上を図るなどのメリットの享受を得ています。

楽天による買収事例

楽天ももともとはイーコマースの会社であったところから、さまざまな会社譲渡を受けるなどのM&Aを繰り返してグループ拡大を図り、今や楽天経済圏と呼ばれるような商業圏を作るほどになりました。
2004年に楽天はあおぞらカードを買収し、現在の楽天カードによるカード事業拡大の基礎としました。さらに2013年にはアイリオ生命保険を完全買収し、楽天生命保険として、楽天グループの生命保険部門としました。
また、2014年にはサッカーのヴィッセル神戸を買収し、グループとしてのシナジー効果、イメージ戦略や知名度や好感度アップを図りました。

会社譲渡ではない方法でも、楽天は経済圏拡大を図り、プロ野球球団の楽天イーグルスの設立やイーバンク銀行の連結子会社化による楽天銀行への移行など、楽天経済圏の拡大のためにM&Aを活用していることがうかがえます。

中小企業の創業者による会社譲渡

これまで説明してきたような有名な企業だけでなく、中小企業の会社譲渡も最近では非常に多く行われています。中小企業の創業者による会社譲渡も大きく2種類があり、長年経営をしてきた創業者が高齢になって引退をすることに伴う会社譲渡とスタートアップ企業の創業者が別の新たな事業の起業を行うためにバイアウトする会社譲渡が目立ちます。

いずれの場合も、中小企業が持つノウハウや技術を、それを必要としていたり、弱点としている企業が買収したりすることによって、事業継承やシナジー効果の創出、新たな事業の創設など、会社譲渡が社会の活性化や効率化に貢献しているということは否定できません。

まとめ

今回は会社譲渡について解説しました。会社譲渡は譲渡側からすると、現在の会社をそのまま売却できる手段であり、後継者が見つからない創業者などにとっては、自分が大切にしてきた会社を存続させることができるという大きなメリットがあります。

また、譲受側からすると、自社の足りない部分にノウハウや強みがある企業を譲受することによって、自社で習得したり、組織したりするのであれば、とんでもなく長い期間を要する取り組みが瞬時に手に入る手段でもあります。

ただ、会社譲渡を適切に行うためには、相手方の選定や適正価格の算定、各種の手続き、デューデリジェンスなど、普段は行うことがないさまざまな専門的な手続きを行う必要がありますので、必要に応じて専門家の活用も有効です。

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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