買収とは?おもな目的や手法、おさえておくべき5つのポイント

近年、耳にする機会も増えた「買収」。事業や産業の変化が著しい現在においては、買収を検討する企業も増えています。

買収を検討するときには、おさえておくべきポイントがあります。買収を検討する企業の経営者様などは、重要なポイントと共におもな目的や手法についても、理解を深めておきましょう。

目次

買収とは?

買収とは、企業の経営権や事業を買い取ることです。売り手側の経営権や事業は、買い取った企業へと引き継がれます。買収では、売り手企業が発行する株式の過半数を取得することで、契約先企業の支配権を得ることが可能です。

また株式の2/3以上を取得した場合、特別決議における決定事項を含んだ経営権の大半を支配できます。そのため、経営や事業運用の主導権を持ちたい場合には株式の過半数、または2/3以上の取得を目的とした買収が行われます。買収は新規企業の立ち上げなどに比べ、費用や労力を削減できることが特徴です。

買収の種類

買収には大きく分けると、「友好的買収」と「敵対的買収」の2種類が存在します。一般には友好的買収を活用する企業が多いですが、事情や状況によっては敵対的買収が行われることもあります。交渉を円滑に進めるには、それぞれの特徴をよく理解しておきましょう。

友好的買収

友好的買収とは、買収に関わる全ての企業が合意したうえで取引する買収方法です。互いの利害関係が合致しており、途中で行われる協議なども双方の合意にもとづいて進めていきます。買収される企業の協力を得られるため、必要な手続きや引継ぎを円滑に進められます。

加えて、買収後の事業をスムーズに展開しやすいことも特徴です。後述の敵対的買収では、同意を得ずに進めるため、取引先の企業から協力を得られないこともあります。協力が得られないと、せっかく引き継いだ事業も円滑に展開できません。それでは買収を行ったとしても、思うような成果は得られないでしょう。

友好的買収であれば同意のもと交渉を進めているため、買収後にも協力を得やすく、引き継いだ事業もスムーズに展開できます。そのため日本では、友好的買収を行うケースが多くみられます。

敵対的買収

敵対的買収とは、買収に関わる企業の同意を得ずに買い取る方法です。相手方の同意を得ないまま、独自で株式の取得などを開始します。相手方の同意を得ないで買収を続行することから、「敵対的」と呼ばれるようになりました。一方的に交渉を進めることも可能なため、交渉の時間などを短縮でき、速やかに買収を成立させることが可能です。

敵対的買収は、相手方の同意を得ないことから反感をかいやすく、トラブルに発展しやすいことが特徴です。実際に買収はしたものの、買収された企業の協力が得られないなどの理由で、買収後の事業がうまくいかないケースもあります。加えて相手方企業が対策を講じている際には、株式の取得率が低くなりやすいため注意が必要です。公開買い付けで必要な所有率に達しない場合には、買収自体が失敗してしまいます。なお敵対的買収は、日本ではあまり取引されません。

買収と似ている3種類の手法

企業を統合させるときには、買収のほかにもさまざまな手法が存在しています。それぞれに特徴があり、状況ごとに適した手法が異なります。なかには買収と似ている手法もあるため、混同しないようにしましょう。

M&A|買収もM&Aのひとつである

M&Aとは「合併と買収」という意味をもつ言葉で、企業の統合が行われるときに広く使われるものです。つまり、買収もM&Aに含まれる手法のひとつとなります。M&Aには買収や合併のほかに、業務提携や資本提携も含まれます。

近年では耳にする機会も多いM&Aですが、日本でも20世紀前半ごろから、財閥を中心として積極的に行われていました。当初は事業再編がおもな目的でしたが、現在では企業の成長戦略などさまざまな目的で行われています。

一方でアメリアなどでは、19世紀ごろからM&Aが行われていたようです。アメリカでの、M&Aは州法によって制定されており、細かい規定は州によって異なります。

合併|企業の法人格が消滅することもある

合併とは複数の企業が一体化し、ひとつの企業となることです。買収では企業を買い取った際、法人格は残したまま運営していきます。一方合併では、企業の法人格を失うことがあります。合併には種類があり状況や戦略に合わせて、適した手法を用いるのが一般的です。合併の種類には、以下の2つがあります。

吸収合併

吸収合併とは、吸収される企業がもつ権利義務を、吸収する企業へと継承させる手法です。すべての権利義務を継承させるため、吸収される企業の法人格は消滅します。このことから吸収される企業を「消滅会社」、吸収する企業を「存続会社」と呼びます。

吸収合併では、消滅会社が保有していた許認可の引き継ぎも可能です。加えて新設合併と比べ、登録免許税も安く済みます。そのためコストを抑えたいときに、利用されることがよくあります。

新設合併

新設合併とは、新設した企業へ権利義務や事業を継承させる手法です。合併に参加した全企業の法人格は消滅し、保有していた権利義務は新設する企業へ継承されます。ただし所有していた許認可は、引き継げません。新設した企業で改めて取得することが必要です。

新設合併では、対等な合併をアピールしやすいことが特徴です。吸収合併では吸収された企業は、ネガティブなイメージを抱かれることもあります。すると所属していた従業員のモチベーションなどに、影響が出る可能性もあります。従業員のモチベーションが下がってしまうと、生産性が落ちることにもなりかねません。

新設合併であれば吸収される企業は存在しないため、ネガティブなイメージを与えることも少ないでしょう。結果的には、従業員のモチベーション維持に役立ちます。

子会社化|買収より広い意味をもつ

子会社化とは、他社を自社の傘下に入れることです。他社が発行する株式の半数以上を取得すると、契約が成立します。子会社化が成立すると買収した側が「親会社」、買収された側は「子会社」となり、経営権は親会社へ移ります。つまり子会社化とは、企業における経営手法を表すときに用いられる言葉です。

対して買収は「買い取り」を表す言葉で、手段のひとつを指します。分かりやすく言い換えると、「子会社化をするために買収や合併が用いられる」ということです。そのため増資や株式分割など他の手段を用いた際にも、契約先企業が保有する株式の過半数を取得すれば子会社化に該当します。このように子会社化は、買収よりも広い意味をもつものです。

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買収で用いられるおもな手法

買収を行うときは、さまざまな手法を用いて進めます。用いる手法は、自社の戦略や状況などによって使い分けることが一般的です。失敗するリスクを減らすには、適切な手法を選択する必要があります。よく活用される手法には、以下のようなものが挙げられます。

事業譲渡

事業譲渡とは、買収される企業から事業の一部またはすべてを買い取る手法です。買収できるのは事業のみに限るため、経営そのものが譲渡されるわけではありません。事業買収は企業全体が譲渡の対象になる株式譲渡と異なり、譲渡が可能な事業を選択できることが特徴です。

例えば売り手側企業に3つの事業部門がある場合、双方の協議により1つの事業のみを譲渡できます。ただしいくつかの事業を譲渡するときには、対象となる資産や負債について、それぞれ個別で手続きが必要です。

加えて従業員の雇用を譲渡するときは、本人の同意と雇用契約の切り替えが必要となります。また対象に不動産が含まれる場合には、不動産の登記手続きも行わなければなりません。

株式取得

株式取得も買収でよく活用される手法です。契約先企業が発行する株式の取得を行うことにより、買収が成立します。買収では、おもに3つの手法が用いられています。

株式譲渡

株式譲渡とは、買収される企業が発行する株式を買い手企業へ譲渡する手法です。買収される企業から買い手企業へ株式が譲渡され取得することにより、経営権および事業が買い手企業へと継承されます。

株式譲渡を行う場合、まずは双方で株式譲渡契約を結び、契約内容に従って譲渡代金を支払います。買収される企業は代金の支払いと同時に、買い手企業に対して取得が必要な分だけ株式の交付を行わなければなりません。双方の手続きが済めば、株式譲渡が成立します。

株式譲渡は他の手法と比べ、手続きか簡便なことが特徴です。そのため、M&Aではよく活用されます。

株式移転

株式移転とは、ある企業が発行した株式を新設する企業へ取得させる手法です。株式移転が行われると、もともと株式を発行していた企業は、新設された企業の子会社となります。株式移転は、買収資金が必要ないことが特徴です。保有する株式を取得させるために親会社へ移動させることで、買収が成立します。そのため、経営統合を目的とした買収でよく見受けられます。

子会社となった企業は買収後も法人として存在し続けるため、統合されたあとの事業運営もスムーズに行うことが可能です。

株式交換

株式交換とは、買い手企業と売り手企業の保有しているお互いの株式を取得し、交換する手法です。まずは、売り手企業が買い手企業へ株式を取得させます。買い手企業は株式を取得したあと受け取った対価として、自社の株式を交付しなければなりません。このように互いの株式を取得して交換するような形になることから、株式交換と呼ばれています。なお現在では2006年に新会社法が施行されたことにより、現金や社債を対価として用いることも可能です。

株式交換が行われると買い手企業は親会社となり、売り手企業は子会社と扱います。そのため、子会社化を目的としてよく用いられる手法です。加えて株式交換は、株式移転と同様に買収資金が必要ないことが特徴です。株式の交換により、対象となる企業の子会社化を図れます。

株式移転との違いとしては、親会社を新設しない点です。株式移転では親会社を新設するのに対して、株式交換では既存の企業を親会社とします。

参考資料:衆議院|「会社法」より

第三者割当増資

第三者割当増資とは、従来は企業における資金調達方法のひとつです。増資を目的として活用される一方で、既存の株主でない第三者へ新株の購入権を与えらます。この仕組みを利用して、買収の手段として利用されることがあります。

株式会社では、議決権をもつ株式の保有率が過半数を超えると、企業の支配権を得ることが可能です。つまり第三者割当増資を利用して、株式の過半数以上を買い手企業が取得すれば、実質的に経営権を譲渡できます。

なお第三者割当増資には、他に類似する増資手法が2つあります。内容が似ており混同しやすいため、誤解しないように違いを理解しておきましょう。

株主割当増資

株主割当増資とは既存の株主に対し、保有する株式数に応じて購入権を与える手法です。既存の株主から資金調達を図るため、新たな株主は現れません。特定の株主に購入権を与える点で第三者割当増資と似ていますが、権利を与える対象が異なります。

第三者割当増資では既存株主以外にも権利を付与できますが、株主割当増資は既存株主のみが権利付与の対象です。

公募増資

公募増資とは、企業以外に一般の投資家も対象となり新たな株主を募集する手法です。広く募集をかけることにより大規模な資金調達ができるため、上場企業で実施されることがよくあります。公募増資も第三者割当増資と類似するものですが、株式を取得させる引受先の範囲が異なります。

第三者割当増資は、特定の第三者に新株を引き受けてもらうものです。対して公募増資は、不特定多数の投資家から引受先を募集します。

会社分割

会社分割とは、企業がもっている権利義務の一部、もしくはすべてを他企業へ継承させることです。従来は組織再編などで活用される手法ですが、企業の権利義務を取得できるため、買収の手段としても利用されています。会社分割は、分割された企業は消滅しないことが特徴です。また会社分割では、継承した企業が交付した株式を対価として扱います。そのため、新たに資金を準備する必要がありません。

なお会社分割には、「新設分割」と「吸収分割」の2種類が存在します。新設分割は、新たに設立した企業へ権利義務を継承させるものです。一方の吸収分割では、既存の企業へ権利義務を継承します。

買収を行う目的

買収の目的は、企業によってさまざまです。一般には、以下の目的などにより買収を行うことがよくあります。自社で目的を明確化する際などの参考にしてください。

業資源の獲得

買い手企業にとっても、事業資源の獲得を目的に買収を行います。買収を行うと、売り手企業の技術やノウハウなどの継承が可能です。自社で一から技術やノウハウを身に付けるには、労力と時間がかかります。

しかし買収を行えば、すでに形成された事業を引き継げばよいため、新規事業を展開するまでの労力と時間の削減が可能です。加えて顧客がついていれば、顧客を引き継げる可能性もあります。

組織改革

買収は、組織改革が目的に行われることもあります。企業では時代の流れや流行に合わせて、現在の体制を見直すことも必要です。古い体制やシステムのままでは、現在の流行についていけず、利用者がサービスを使いにくいと感じる可能性があります。

買収では、事業の統合や子会社化の実施が可能です。組織の再編を目指すことで、社内の体制なども改編できます。さらに自社に適したシステムを導入すれば、従業員も働きやすくなるでしょう。

リスクマネジメント

リスクマネジメントも、買収における目的のひとつです。事業を運営するうえで、リスクは分散させる必要があります。1つの事業のみで運営していると、収益が下がったときに受けるダメージが大きくなります。あまりにも損失が大きいと、事業の存続が困難になりかねません。

買収を行い事業の多角化を図ることで、リスクを分散できます。もし1つの事業で業績が悪化しても、別事業で利益を確保できれば、企業全体の業績悪化を防げます。

買収する企業のメリット

買収には、買い手企業と売り手企業でメリットが異なります。まずは、買い手企業のメリットをおさえておきましょう。

事業規模の拡大

買収を行うと、効率的に事業規模の拡大が図れます。買収された企業のノウハウを活かせるため、新たな事業を一から始める必要がありません。従来、一から新規事業を立ち上げるとさまざまなリスクが伴います。しかしすでにその分野で実績のある企業を買収すれば、技術力や顧客などを引き継ぐことが可能です。そのためリスクが抑えられ、新規事業への参入がしやすくなります。

また新規事業を開始する場合には、従業員の育成なども必要です。採用活動や教育などを行う必要があり、戦力となるまでに時間と費用もかかってしまいます。一方で買収を行えば、すでに戦力として活躍している従業員を引き継げるため、新規事業の展開に必要な時間の短縮が可能です。

自社における弱点の補強

買収は、自社の弱点を補うのにも有効です。弱点を補うことで、強みをさらに伸ばせます。例えば商品がどれだけ素晴らしくても、マーケティング戦略がうまくいかないと、多くの方に認知してもらえず売上も上がりません。

このような場合には、マーケティングの質を上げることが必要です。マーケティング事業を行う企業を買収すれば、充実したマーケティング戦略を実施できます。結果的には、業績アップにも期待できるでしょう。

相乗効果に期待できる

相乗効果に期待できることも、買収のメリットです。ビジネスでは2つの事業を掛け合わせたとき、予想以上の効果が生じるケースがあります。例えば事業を統合したことにより、大量の仕入れができるようになったとします。すると値段交渉もしやすくなり、仕入先が交渉に応じれば仕入コストの削減が可能です。

また他分野の技術を取り入れることで、技術力が飛躍的に向上するケースもあります。このような相乗効果が得られると、強みをさらに伸ばすことも可能です。

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買収される企業のメリット

買収では買い手企業のメリットがクローズアップされがちですが、特定の状況下では買収される企業にもメリットがあります。買収される企業のメリットとしては、以下のものが挙げられます。

事業の存続

まずは事業の存続です。業績が悪化した企業では、事業の存続さえ困難なことがあります。自社で回復できれば良いですが、自社のみでは難しい場合もあるでしょう。確かに他企業に買収されると、経営権を失うこともあります。しかし経営権が移ったとしても、事業を存続させることは可能です。

なお事業の一部を売却する場合には、そのまま会社が残るため経営権は維持できます。事業を1つ失うことになりますが、どうしても事業の再建が困難な場合には、買収を検討してみてもよいでしょう。

事業継承ができる

事業継承ができることも、売り手企業のメリットです。日本では、後継者不足が深刻な問題となっています。もし後継者不足で倒産する企業が増えてしまうと、日本経済にも大きな影響を与えてしまうでしょう。

しかし後継者問題を自社のみで解決するのは、容易ではありません。また廃業を検討するにもコストや従業員の雇用を考えると、簡単には踏み切れないケースがあります。このような場合において、買収は有効な手段です。他社へ事業を継承させることにより、後継者問題を解決が可能となり事業の継続もできます。

従業員の雇用継続

従業員の雇用継続も、メリットのひとつです。業績悪化や廃業により事業の存続ができなくなると、従業員は職を失います。従業員によっては本人だけでなく、その家族にも影響が及ぶでしょう。従業員が不満を抱いたときには、トラブルに発展する可能性もあります。

買収では事業だけでなく、従業員や技術の引き継ぎも可能です。事業の継続も可能となるため、従業員の継続的な雇用も確保できます。なお売り手企業に在籍する従業員の処遇については、買い手企業が雇用継続を希望するケースも多いようです。

買収時の流れ

買収を行う際の詳細な流れは、用いる手法や企業ごとに異なります。大まかには、以下のような流れに沿って交渉を進めていきます。

目的と戦略を明確に設定する

買収を行うときは、目的と戦略を明確にすることが大切です。目的を明確に設定しないと、達成するまでの戦略も曖昧になってしまいます。まずは自社の現状を振り返り、強みや課題および問題点の洗い出しが必要です。自社を客観的に振り返ることにより、自社の特徴をきちんと把握できます。そのあとで、「買収によって何を得たいのか」を検討する必要があります。強みを伸ばすのか、あるいは弱点を補強するのか目的を明確に設定しましょう。

また目標を設定するときは、数値化することが重要です。何となく設定した目標では、具体的な戦略を立てられません。従業員も何を頑張れば良いのか分からず、モチベーションの維持も困難です。現状と目標を数値化し社内で共有することで、具体的な戦略を立案できます。従業員も達成すべ目標が明確になるため、アクションを起こしやすくなります。

なお市場の分析を自社で行うことが難しい場合には、マーケティング会社やM&Aアドバイザーなどの利用を検討しましょう。

相手企業を見つける手段を決める

目的や目標を明確に設定したら、買収の相手企業を探すことが必要です。しかし無数に存在する企業の中から、自社に適した企業を見つけるのは容易ではありません。中小企業庁がまとめたデータによると、日本にはおよそ358.9万社の企業が存在するとされています。(2016年6月現在)

そのため買収のときにはM&Aの仲介企業、またはプラットフォームなどを活用するケースが多く見られます。仲介企業は、M&Aの専門家です。企業のマッチングをはじめ、アドバイスや交渉のサポートをしてくれます。またプラットフォームとは、買収を検討する企業が登録するサービスのことです。サイトに登録するとことで、自社でも相手企業が見つけやすくなります。

仲介企業やプラットフォームは、得意とする分野がそれぞれで異なります。利用するサービスは、買収したい業種を得意とするものを選びましょう。なお利用するサービスを検討する際には、手数料に注意が必要です。手数料はサービスごとに異なるため、事前に確認して費用対効果を分析しておきましょう。

参考資料:中小企業庁|「中小企業・小規模企業の数(2016年6月時点)の集計結果を公表します」より

相手企業を選ぶ

次に相手企業の選定です。選定を行うときは、戦略に沿って慎重に選ぶ必要があります。とはいえ、理想とする企業が必ずしも見つかるとは限りません。理想通りになればよいのですが、多少の妥協が必要となることもあるでしょう。妥協案を検討するときは、明確な根拠と対応策をもとに、妥協できるラインを明確に設定することが大切です。

相手企業と交渉を行うときには、計画通りに進まないこともよくあります。妥協し過ぎてしまうと、投資効果が見合わなくなるため注意が必要です。実際にM&Aでは、資金が回収できなくなった事例も多く存在します。失敗するリスクを減らすためにも、妥協できる範囲については明確に設定しておきましょう。

なお仲介企業へ依頼する場合には、「ロングリスト」や「ショートリスト」を作成してくれることがあります。必要な情報がリストにピックアップされているため、比較がしやすく優先順位を付けて選定することが可能です。買収で仲介企業を利用するときは、ぜひリストを活用しましょう。

面談および条件交渉

相手企業が決まったあとは、面談および交渉を進めていきます。相手企業との面談では、はじめにトップ同士の会談が実施されるケースも多いようです。トップ同士の面談では、お互いの事業内容や企業理念などの確認が行われます。

面談や交渉に臨む際のポイントは、事前準備をしっかりとしておくことです。無計画で準備が不足したままだと、優位に交渉を進められません。買収金額においても、「高掴み」してしまう可能性があります。

そのような事態に陥らないためには、交渉へ向けた準備を入念に行うことが大切です。特に参入事業の市場や相手企業に関する事項については、できる限り情報を集めましょう。より多くの情報を集めることで想定を広げられるため、相手企業からのアプローチにも柔軟に対応ができます。結果的には、交渉を優位に進めやすくなります。相手企業のホームページや四季報など、公表されている情報は可能な限り集めておきましょう。

基本合意契約書の作成・締結

双方が大まかな条件に合意したら、続いて基本合契約意書の作成となります。基本合意書とは、交渉で合意した基本的な条件を記した契約書です。契約書には交渉条件や買収スケジュール、および機密保持などを記載します。

また買い手企業の場合、書類作成のときには「独占交渉権」の明記が重要です。独占交渉権とは、買い手企業が売り手企業の交渉を制限できる権利をいいます。契約書で設定されると、売り手企業は特定の企業以外と独断で交渉できません。そのため買い手企業は、他社が交渉に参加することを阻止できます。

なお基本合意契約書の作成は、必須というわけではありません。しかし契約書を締結すると、一定の法的拘束力が発生します。違反した場合には、損害賠償責任が生じる可能性もあります。円滑に交渉を進めるのにも役立つため、できることなら基本合意契約書を作成するようにしましょう。

相手企業の価値とリスク調査

基本的な内容の合意に至ったあとは、相手企業の価格やリスク調査をより具体的に行います。このような調査のことを専門的には、「デューデリジェンス」といいます。調査を実施するときには、調査を依頼する企業選びが重要なポイントです。

相手企業を具体的に調査するには財務や法務、ITなど各分野における専門的な見識が必要です。自社のみで対応するのは困難なため、多くの企業では各分野の専門家へ依頼しています。しかし専門家へ依頼する場合には、それなりの費用が発生します。例えば税務や法務の調査であれば業者によっては、数百万円ほどの調査費用を請求されることもあるようです。

調査するだけでもそれなりの費用がかかるため、調査を依頼する企業は慎重に選ぶ必要があります。調査を依頼するときは、複数の業者から見積もりを取得し、実績などを確認して信頼できそうな業者を探しましょう。

買収価格の決定(バリュエーション)

続いて調査をもとに、買い手企業は最終的な買収価格を決定します。買収価格を決めることを専門的には、「バリュエーション」といいます。買収価格を算定するときは、複数のアプローチを用いることが一般的です。おもに用いられる手法には、3つの種類があります。

インカムアプローチ

企業の収益力をもとに算定する手法です。将来獲得される収益(利益、キャッシュフローなど)を予測し、現在の価値に還元して評価します。

マーケットアプローチ

類似する業界や企業を比較対象とし、相手企業の価値を評価する手法です。上場された株価をもとに、企業を評価します。

コストアプローチ

現在の純資産をもとに、企業を評価する手法です。帳簿に記載された純資産、もしくは資産と負債を時価に置き換えることで、企業の価値を割り出します。

これらのアプローチを行うことで、買収の目安となる金額を客観的に算出できます。なお調査の際に問題点が発見された場合などには、価格にマイナスな影響が及ぶため注意が必要です。

最終的な条件の合意・契約書の作成

買収価格が決定したら、改めて交渉へ進みます。最終的な条件に双方が合意すれば、最終契約書の作成が必要です。最終契約書として用いる書類には、いくつかの種類があります。

まずは「株式譲渡契約書」です。書面には譲渡する企業名や取得予定の株式数、および代金などを記載します。M&Aを目的とした場合には、表明保証の内容を充実されることが多いようです。表明保証には譲渡する株式に関して、売主が買主に保証する内容を記載します。

また「事業譲渡契約書」の作成も必要です。この契約書には、引き継ぐ範囲や対価金額、および支払い方法などを明記します。契約内容によっては、従業員の取り扱いや解除条件を記載するケースもあります。加えて最終契約書は、法的拘束力をもつことがほとんどです。多くの契約書では、違反した場合の損害賠償責任についての内容が記載されています。

なお契約書の作成時には、ネットにある雛形を使用するのは控えましょう。ネットにアップされた雛形を使えば、手軽に契約書を作成できますが、案件ごとの詳細次項まではカバーできません。自社では対応できない内容が含まれていると、契約違反に該当する恐れもあるため注意が必要です。

引き渡しの実施(クロージング)

契約書の締結が済めば、最後に契約内容の履行です。契約の条件や内容に沿って、引き渡しを行います。引き渡しの詳細については、買収に使った手法や契約内容によって異なります。例えば株式譲渡の引き渡しでは、売り手から買い手へ譲渡するのに合わせて、買い手が売り手へ代金を支払うことが一般的です。

また実際にクロージングを行う際には、余裕をもった期間設定をする必要があります。従来、契約書の締結後にはクロージングまでに、多くの手続きを行わなければなりません。例えばリスク調査で発見した問題点の解決、本契約によって定めた法令への対応などです。これらの対応が必要となるため、履行までには一定の期間を要します。一般には履行まで、1カ月から1年ほどを想定するケースが多いようです。ただし履行までの期間が長過ぎると事業展開が遅れてしまうため、履行までの期間についてもあらかじめ決めておきましょう。

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買収でおさえておくべき5つのポイント

買収には、成功させるためにおさえておきたいポイントがあります。買収では先方との交渉時だけでなく、至るところにリスクが潜んでいるものです。失敗に終わる確率を減らすには、徹底したリスク管理が必要です。買収を行うときは、以下にある5つのポイントをおさえておきましょう。

誠実さを心掛ける

買収を円滑に進めるためには、相手企業と信頼関係を築くことが重要です。買収に限らず、ビジネスでは信頼関係が重要視されることがよくあります。相手からの信用性が高まることで、円滑な交渉にもつながります。反対に自社の利益のみを考えた言動などは、信頼を失う要因になりかねません。

特に売り手企業の場合には、帳簿隠しや虚偽の報告に注意が必要です。のちに発覚したときには買収が破たんするだけでなく、訴訟などに発展する可能性もあります。自社に簿外債務や偶発債務がある場合などには、自ら事前に申告することが大切です。買収を円滑に進めるためにも、交渉を進めるときは誠実さを心掛けましょう。

適正価格で買収する

買収は、自社の企業規模に合った適正価格で買収することが重要です。自社が買い手の場合、買収する企業の規模が自社と比べて大きいと、伴うリスクも大きくなります。大規模な企業は、買収金額だけでなく運用資金も高額になりがちです。買収後の運用を失敗してしまった場合、大きな損失が出る可能性があります。そのため買収する企業については、自社の規模と見比べて適正と判断される企業を選びましょう。

また自社が売り手企業の場合には、買収希望金額に対して明確な根拠を添えることが重要です。売り手企業では、自社への思い入れが強い経営者様も存在します。なかには、売上金額を基準に買収価格を提示する売り手企業もあるようです。

しかし買い手企業からすると、提示されたからといって高掴みするわけにはいきません。あまりに高額な要望をしてしまうと、合意に至らず買収できなくなります。買収価格の提案を行う際には、明確な根拠に基づいた金額を提示することが必要です。根拠を述べることで相手も納得しやすくなり、希望する価格で買収が成立する可能性もあります。

情報漏えいに注意

買収を行うときは、情報漏えいにも注意が必要です。買収と聞くと、ネガティブなイメージを持つ方もいます。そのため情報を発信するタイミングを誤ってしまうと、至るところへ影響が懸念されます。

まずは取引先企業への影響です。望ましくないタイミングで取引先に情報が伝わってしまうと、「倒産しそうなのか」などのマイナスイメージを与えてしまいます。取引先が不信感を募らせてしまったときには、取引の中止や取引量の減少を招きかねません。

また従業員への影響も懸念されます。自社が買収されるとなると、不安に感じる従業員もいます。なかには、将来を考えて退職する方もいるでしょう。社内の混乱が買い手企業に伝わってしまうと、買収から退いてしまう可能性もあります。

情報漏えいは、上記以外にもさまざまな影響が懸念されます。情報漏えいのリスクを減らすには、交渉の途中で機密保持契約書を結ぶと共に、情報を共有するメンバーは最小限に留めましょう。

従業員と良好な関係の構築を図る

買収が行われると、働く従業員を取り巻く環境は大きく変化します。なかには新たな環境に馴染めず、退社する従業員もいるでしょう。しかし優秀な人材が退職してしまうと、新規事業に影響を及ぼす恐れがあります。

また、従業員同士のトラブルが発生するケースもあるようです。これまでは別の企業に所属していたため、仕事のやり方やルールも異なります。納得でないときには、従業員同士で衝突してしまうことがあります。なかには、理不尽な要求やいじめに発展するケースもあるようです。

このような事態が発生しては、業務効率が低下してしまい、新規事業をスムーズに展開できません。結果的には、買収が失敗に終わる可能性があります。新規事業をスムーズに展開するには、従業員が安心して働ける環境を整えることが大切です。買収をしたあとは、社内規定の見直しや就業規則の整備などを行いましょう。

従業員のニーズを知るために、社内アンケートやヒアリングの実施も効果的です。定期的に実施することで、隠れた問題などの発見がしやすくなります。

買収後は検証を明確に行う

買収後には、必ず明確に検証を行いましょう。既存の事業を引き継いだとはいえ、始めからうまくいくことばかりではありません。そのようなときは、検証を行い問題点や課題の洗い出しが必要です。課題を早期解決することで、新規事業が成功する確率を高められます。

なお検証を行うときは、数値化するなど明確に行うことが重要です。曖昧な検証では課題や問題点を正確に把握できず、適切な改善ができません。一般には、検証の際にPMIと呼ばれる手法が用いられます。

PMIとは、買収計画の統合効果を検証する作業のことです。「経営統合」、「業務統合」、「意識統合」の3段階に分けて行います。実施する際には、期間を設定して段階的に進めていきます。PMIの実施方法については企業ごとに異なりますが、より具体的な内容を盛り込むことで、検証の精度を高められるでしょう。

大手企業における買収の事例

買収は日本でも盛んに行われています。実際に行われた大手企業の事例を見てみましょう。事例を知ることでイメージがしやすくなり、自社が買収するときに役立ちます。

JT(日本たばこ産業株式会社)が海外企業のたばこ部門を買収したケース

JTは、もともと日本専売公社として運営されており、1985年に民営化されました。80年以上に及ぶ歴史のなかで、これまでにもさまざまな買収を行っています。

なかでも規模が大きかったものが、2007年に行われたGallaher Groupの買収です。買収価格は1兆7,310億円となり、準有利子負債などを含めた総額はおよそ2兆3,530億円にのぼります。

当時Gallaher Groupは、ヨーロッパ諸国を中心に多くのシェアを有しており、イギリスでは3番目となる規模のたばこメーカーでした。このときJTも世界3位のたばこメーカーでしたが、ヨーロッパ市場のシェアを伸ばすことが買収の目的となります。この買収によりJTは、市場の拡大に成功しています。買収前は日本や台湾など、アジアを中心とした3つが主要な市場でしたが、買収後にはヨーロッパなどにも市場を拡大しました。

なお買収を行った際、JTはGallaher Groupの従業員に対する待遇の見直しを行っています。給与制度や福利厚生に関するハンドブックを作成し、24時間対応の連絡窓口の設置を行い、従業員を手厚くサポートしました。こういった入念な準備なども、買収が成功に至った要因として考えられます。

ソフトバンクグループ株式会社が半導体設計企業を買収したケース

続いてソフトバンクグループ株式会社が2016年に、イギリスの半導体設計企業であるArm Flexible Accessを買収した事例です。Arm Flexible Accessの買収価格はおよそ3兆4800億円となり、当時の日本企業では他と比べて高額な買収価格となりました。Arm Flexible Accessは認知度が高かったわけではありませんが、長期的な成長が見込まれるとして買収へと至ったようです。

なおソフトバンクグループ株式会社は積極的にM&Aを行っており、メディアで取り上げられることもあります。野球の球団をはじめ、中国の大手通信企業など買収する業種もさまざまです。実績も豊富なことから、ソフトバンクグループ株式会社はM&A体制が充実しているとされています。実際に、自社のみでM&Aを行うケースもあるようです。

まとめ

買収は事業拡大やリスク分散を図る際に、有効な手段のひとつです。他社の事業を引き継げるため、迅速に新規事業の展開ができます。有用な一方で、適切に交渉を進めないと買収価格が高額になる、新規事業の展開が失敗に終わるなどのリスクがあります。

リスクを抑えるためには、自社の目的などに応じて適切な手段を用いることが大切です。なお自社のみでの買収が難しい場合には、仲介企業などの専門家の利用も検討してみましょう。

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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